「溶接工の年収はいくらか」——検索すると、380万円台から900万円超まで、まったく違う数字が並びます。どれが本当なのか、混乱した方も多いのではないでしょうか。
結論から言えば、どれも実態の一部です。溶接工の年収は、年代、保有資格、扱える溶接法、対応できる材質と姿勢、業界、そして勤務先の収益構造によって大きく変わります。「平均◯◯万円」という数字だけでは、自分の場合いくらになるかは判断できません。
そして溶接工の年収には、他の職種にはない特徴があります。若いうちは全職種平均を下回るのに、40代で追い越すのです。これは技能職ならではの構造であり、キャリアを考えるうえで極めて重要な事実です。
本記事では、溶接工の年収を複数の軸から分解し、年収を動かす5つの変数を整理します。あわせて、年収600万円以上を実現する具体的なルートと、額面の高さだけで転職先を選んではいけない理由までお伝えします。
(賃金構造基本統計調査ベース)
(全職種平均を上回る)
有効求人倍率
溶接工の平均年収は452.5万円。ただし…
厚生労働省の賃金構造基本統計調査をもとにした職業情報提供サイト(job tag)によると、溶接工の平均年収は約452.5万円です。内訳は次のとおりです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 平均月給 | 約31万9,800円 |
| 平均賞与(年間) | 約68万6,900円 |
| 平均年収 | 約452万4,500円 |
| 平均日当 | 約1万6,304円 |
一方、令和6年分の民間給与実態統計調査による全産業の平均年収は478万円。比較すると、溶接工の平均はやや低い水準ということになります。
ここで「やはり溶接は稼げないのか」と結論づけるのは早計です。この平均値には、見習い期間の若手から熟練技能者まで、すべてが含まれています。次のセクションで年代別に分解すると、まったく違う姿が見えてきます。
【年代別】40代で全職種平均を追い越す
溶接工の年収を理解するうえで、最も重要なのがこのデータです。
| 年代 | 溶接工の平均年収 |
|---|---|
| 20〜24歳 | 322万円 |
| 25〜29歳 | 370万円 |
| 30〜34歳 | 421万円 |
| 35〜39歳 | 460万円 |
| 40〜44歳 | 531.3万円(ピーク) |
| 45〜49歳 | 521.7万円 |
| 50〜54歳 | 505.5万円 |
| 55〜59歳 | 517.6万円 |
注目すべきは40〜44歳の531.3万円という数字です。全職種の40〜44歳の平均給与が約516万円であることを踏まえると、この年代で溶接工は全職種平均を上回ります。
なぜこの逆転が起きるのか
理由は、溶接が技能の蓄積がそのまま価値になる職種だからです。
- 20代は基本的な溶接法と姿勢を習得する期間で、単価は低い
- 30代でJIS溶接技能者の専門級を取得し、対応できる作業が広がる
- 40代では難材質・難姿勢・高精度の作業を任され、代替が効かない存在になる
この年収カーブが示しているのは、溶接工のキャリアは後半に伸びるということです。ただし、それは自動的に起こるものではありません。20代・30代でどれだけ幅広い溶接法・材質・姿勢を経験できたかが、40代の年収を決めます。つまり、若いうちにどんな仕事をさせてもらえる会社にいるかが決定的に重要だということです。
【技能別】単価が上がる条件
溶接工の市場価値は、次の3軸の掛け算で決まります。
軸1:溶接法
| 溶接法 | 特徴 | 市場価値 |
|---|---|---|
| 被覆アーク溶接(手溶接) | 屋外・現場作業に強い。基本技能 | 標準 |
| 半自動溶接(MAG/MIG) | 能率が高く工場作業の主力 | 標準〜高 |
| TIG溶接 | 高精度・美観が求められる。習得難度が高い | 高い |
特にTIG溶接は、ステンレスやアルミなど難材質と組み合わせることで市場価値が大きく上がります。複数の溶接法に対応できることが、単価を押し上げる第一条件です。
軸2:材質
| 材質 | 難度 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 軟鋼(炭素鋼) | 基本 | 建築鉄骨、一般構造物、機械部品 |
| ステンレス鋼 | 高い | 食品機械、薬品タンク、厨房設備 |
| アルミニウム | 高い | 車両、船舶、輸送機器 |
| チタン | 非常に高い | 化学プラント、航空宇宙、医療機器 |
日本溶接協会のJIS溶接技能者資格にも、ステンレス鋼溶接、チタン溶接といった区分が設けられています。これらの資格を保有する技能者は数が限られ、対応できる企業も限られるため、希少性がそのまま処遇に反映されます。
軸3:姿勢
溶接は、対象物の向きによって難度がまったく変わります。
- 下向き(F):最も基本的で作業しやすい
- 横向き(H):溶融金属が垂れやすく難度が上がる
- 立向き(V):重力との戦い。技能差が出やすい
- 上向き(O):最も難度が高い。全姿勢対応の証明になる
JIS溶接技能者資格では、基本級(下向き)と専門級(立向き・横向き・上向きなど)が区分されています。全姿勢に対応できる技能者は、現場での配置の自由度が高く、企業からの評価も高くなります。
【業界別】造船・プラント・橋梁・産業機械
同じ溶接技能でも、どの業界で働くかによって年収水準と働き方が変わります。
| 業界 | 特徴 | 年収の傾向 |
|---|---|---|
| 造船 | 厚板、大型構造物。特殊姿勢・狭所作業も | 経験5年以上で450〜600万円程度 |
| プラント・圧力容器 | 高い品質基準。ボイラー溶接士など資格要件が厳格 | 資格次第で高水準 |
| 橋梁・鉄骨 | 建設向け。JIS資格が前提 | 標準〜高め |
| 産業機械・建設機械 | 多品種少量。図面読解力が求められる | 標準。技能で差がつく |
| 食品機械・厨房設備 | ステンレスTIGが中心。美観が求められる | 技能次第で高め |
| 配管 | 管の突合せ溶接。全姿勢対応が必要なことも | 標準〜高め |
造船分野では、厚板や特殊姿勢(狭所・高所)に対応できる技能者は550万〜750万円程度、出張工事を含む案件では手当込みで600万〜800万円という水準も見られます。ただし、こうした高年収には出張や特殊環境という条件が伴うことが多い点は押さえておく必要があります。
資格手当のリアル
溶接工の年収を押し上げる直接的な要素が、資格手当です。
資格手当の一般的な相場
| 資格 | 月額手当の目安 | 年間換算 |
|---|---|---|
| JIS溶接技能者(基本級) | 3,000〜1万円 | 3.6〜12万円 |
| JIS溶接技能者(専門級) | 5,000〜2万円 | 6〜24万円 |
| ステンレス・チタン等の特殊材 | 5,000〜1.5万円 | 6〜18万円 |
| ボイラー溶接士 | 1〜3万円 | 12〜36万円 |
| 溶接管理技術者 | 1〜3万円 | 12〜36万円 |
金額は企業によって大きく異なりますが、複数の資格を保有することで手当が積み上がる設計を採用している企業が多くあります。溶接法・材質ごとに資格が分かれているため、取得するほど手当が増える構造です。
年収を左右する5つの変数
溶接法・材質・姿勢の掛け算で決まる、技能そのものの幅です。「半自動・軟鋼・下向きのみ」と「TIG・ステンレス・全姿勢」では、企業にとっての価値がまったく違います。これが最も本質的な変数です。
JIS溶接技能者の基本級・専門級、材質別資格、ボイラー溶接士、溶接管理技術者——保有資格の数と種類が手当に直結します。同時に、その会社の手当設計が手厚いかどうかも同じくらい重要です。
見落とされがちですが、極めて重要な変数です。同じ技能を持っていても、会社が利益を出せていなければ給与の原資がありません。自社製品を持ち価格決定力があるメーカーと、図面支給で単価を叩かれる受託加工では、払える給与の上限が構造的に異なります。
溶接作業だけを担当するのか、段取り・治具製作・図面確認・後進の指導・品質管理まで担うのか。「作業者」から「工程を任される人」へ役割が広がるほど、処遇も上がります。将来的には班長・職長・製造管理という道もあります。
地域による賃金水準の差、出張手当、夜勤手当、住宅手当など。求人統計によれば兵庫県の溶接工の平均年収は約390万円で、大阪府(約394万円)とほぼ同水準、京都府(約401万円)に近い関西圏の相場を形成しています。
年収600万円以上を実現する3つのルート
最も王道のルートです。TIG溶接を軸に、ステンレス・アルミ・チタンといった難材質に対応し、全姿勢の専門級資格を揃える。「この人でなければ対応できない仕事がある」状態を作れば、企業側は手放せません。食品機械、化学プラント、医療機器、航空宇宙といった高付加価値分野への道も開けます。
溶接管理技術者(WES 8103等)や溶接作業指導者の資格を取得し、施工計画、品質管理、後進の育成まで担うルートです。現場の技能に加えてマネジメントの役割を持つことで、班長・職長・製造課長といったポジションが視野に入ります。身体的な負担が増す年代でも、キャリアを継続しやすい形です。
見落とされがちですが、最も即効性があるルートです。同じ技能でも、会社の収益構造が違えば給与水準は変わります。自社製品を持ち、価格決定力があり、利益率の高い企業に移ることで、技能をそのまま持ち込んで年収が上がるケースがあります。有効求人倍率2.67倍という市場環境は、この選択を現実的にしています。
額面だけで判断してはいけない理由
• 賞与は業績次第で大きく変動
• 資格の更新費用が自己負担
• 特定の取引先に売上を依存
• 設備投資が止まり作業環境が悪化
• 数年後に受注が細り給与も下がる
• 過去3年の賞与支給月数が安定
• 資格の取得・更新費用を会社が負担
• 取引先が分散し受注が安定
• 作業環境への投資が継続している
• 自己資本比率が高く長期的に安心
製造業は「受注構造」が給与の原資を決める
ここが、施工管理における「元請か下請か」と同じ論点です。
• 技術力で選ばれ、価格競争に巻き込まれにくい
• 設計から一貫して手がける
• 取引先が複数に分散
• 利益が出るため、給与・設備・教育に投資できる
• 相見積もりで単価を叩かれやすい
• 特定の発注元に売上を依存
• 納期・仕様の変更を受け入れるしかない
• 原資が限られ、投資に回せない
重要なのは、これは会社の規模とは別の軸だということです。小規模でも独自技術で価格決定力を持つ会社はありますし、規模がそれなりでも下請比率が高く利益が薄い会社もあります。
確認すべき3つの経営指標
| 指標 | 目安 | わかること |
|---|---|---|
| 自己資本比率 | 40%以上 | 設備更新や不況に耐えられる体力があるか |
| 売上高経常利益率 | 5%以上 | 価格決定力があり、本業で利益を出せているか |
| 取引先の分散度 | 特定1社に偏っていない | 発注元の方針転換で揺らがないか |
まとめ
溶接工の全国平均年収は約452.5万円で、全産業平均の478万円をやや下回ります。しかしこの数字だけで判断してはいけません。年代別に見ると、40〜44歳で531.3万円とピークを迎え、全職種の同年代平均(約516万円)を上回ります。溶接は技能の蓄積がそのまま価値になる職種であり、キャリアの後半に伸びるという特徴があるのです。
年収を決めるのは「溶接法 × 材質 × 姿勢」の掛け算です。TIG溶接、ステンレス・アルミ・チタンといった難材質、そして全姿勢への対応——この範囲が広いほど市場価値は高まります。だからこそ20代・30代でどれだけ幅広い経験を積めるかが、40代の年収を決めます。
そしてもうひとつ、見落としてはならないのが勤務先の収益構造です。同じ技能を持っていても、自社製品で価格決定力を持つ会社と、図面支給で単価を叩かれる受託加工では、払える給与の原資が構造的に違います。有効求人倍率2.67倍という市場環境は、技能を持つ溶接工が複数社を比較して選べる立場にあることを意味しています。額面だけでなく、技能を伸ばせる環境か、そして経営が安定しているかまで確認したうえで、納得のいく選択をしてください。
スコアで見つけませんか?
JOBSCOREは、調査員による現地取材と決算データ分析に基づき
5項目でスコアリング。
70点以上の優良企業だけをご紹介します。
- 厚生労働省「令和6年 賃金構造基本統計調査」
- 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「溶接工」
- 国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
- 一般社団法人日本溶接協会「溶接技能者資格」
- 求人統計データ(求人ボックス等)による都道府県別平均年収
- JOBSCORE 掲載求人データ