「溶接工はきつい」を分解する|2021年の法改正で変わったこと、変わらないこと

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ジョブスコア編集部|

「溶接工はきつい」——検索するとこの言葉が並びます。夏場の暑さ、火花と粉塵、アーク光、狭い場所での無理な姿勢、火傷のリスク。実際に現場を経験した人ほど、思い当たる部分があるでしょう。

ただ、その情報の多くは2021年より前に書かれたものです。2021年4月、溶接作業の環境をめぐる法規制が大きく変わりました。溶接ヒュームが特定化学物質に指定され、屋内で継続的にアーク溶接を行う事業者には、濃度測定・換気設備・保護具の使用・特殊健康診断などが法的義務となったのです。

これは溶接という仕事にとって、極めて大きな転換点でした。とはいえ、法律が変わればすべてが解決するわけではありません。実際には、設備投資と管理体制を整えた会社と、そうでない会社の差が、かつてないほど開いています

本記事では、「きつい」と言われる理由を5つの要素に分解し、法改正と技術の進歩で何が変わり、何が変わらなかったのかを整理します。そのうえで、「きついのは溶接という仕事なのか、それとも今いる職場なのか」を見極める視点をお伝えします。

2021年4月
溶接ヒュームが
特定化学物質に指定
6か月に1回
特殊健康診断の
実施が義務に
年1回
保護具のフィットテスト
実施が義務に

「きつい」の正体を5つに分解する

「きつい」という言葉は便利ですが、それだけでは何も解決しません。転職すべきかどうかを判断するには、自分にとって何がきついのかを分解する必要があります。溶接工の「きつさ」は、おおむね次の5要素に整理できます。

図:溶接工の「きつい」を構成する5要素
溶接工の 「きつい」 ① 暑さ・熱 防護服・火花・夏場 ② 粉塵・ヒューム 健康リスク ③ 光・視覚負担 アーク光・目の疲労 ④ 姿勢の負担 上向き・狭所・腰肩 ⑤ 危険性 火傷・感電・火災
この5つのうち、自分にとって本当にきついのはどれか。分解すれば、打つ手が見えてきます。

重要なのは、この5つのうち何が変わったのかを正確に知ることです。次のセクションで、2021年の制度変更を確認しましょう。

2021年4月、溶接の現場で何が変わったのか

2021年4月1日、労働安全衛生法施行令および特定化学物質障害予防規則(特化則)等の改正が施行されました。この改正の中心にあったのが、「溶接ヒューム」の特定化学物質への指定です。

なぜ規制されたのか

厚生労働省は、溶接ヒュームが労働者に神経障害等の健康障害を及ぼすおそれがあることが明らかになったとして、溶接ヒュームを独立した特定化学物質(管理第2類物質)に位置づけました。背景には、ヒュームに含まれるマンガンによる健康影響への懸念があります。

つまりこの改正は、溶接工の健康リスクを国が公式に認め、対策を事業者の義務としたという意味を持ちます。

事業者に義務づけられた措置

金属アーク溶接等作業を継続して屋内作業場で行う事業者には、次の措置が義務づけられました。

義務づけられた措置 内容
溶接ヒュームの濃度測定 個人サンプラーによる測定を実施し、結果に応じた対策を講じる
換気装置の設置 全体換気装置による換気の実施等。測定結果により追加措置が必要
有効な呼吸用保護具の使用 測定結果に基づいて適切な保護具を選定し、使用させる
フィットテストの実施 面体型の保護具が顔に適切に密着しているかを確認(1年以内ごとに1回)
特定化学物質作業主任者の選任 技能講習を修了した者から選任し、作業を管理させる
特殊健康診断の実施 6か月以内ごとに1回、対象作業者全員に実施
記録の保存 測定結果、健診結果等の記録を保存する

なお、屋外や船内での作業についても有効な呼吸用保護具の着用が義務とされています。また、燃焼ガスやレーザービーム等を熱源とする溶接・溶断は、この規制の対象外です。

「粉塵は我慢するもの」ではなくなった
かつての溶接現場では、ヒュームや粉塵は「仕事の一部」として受け入れられてきた面がありました。しかし2021年4月以降、屋内で継続的にアーク溶接を行う職場では、測定・換気・保護具・健診が法的義務です。これらを実施していない事業者は、法令違反となります。溶接工の健康を守る枠組みが、根本から変わりました。

【要素別】変わったこと・変わらないこと

制度が変わっても、すべてのきつさが消えたわけではありません。5要素それぞれについて、実態を整理します。

1 暑さ・熱環境 改善が進行中

防護服・革手袋・遮光面を着用したうえで、アークの熱と火花のなかで作業する——この構造自体は変わりません。特に夏場の工場内は、依然として過酷な環境になり得ます。

一方で、改善の動きは確実に進んでいます。空調服(ファン付き作業服)の普及、スポットクーラーや大型送風機の導入、工場全体の空調化などにより、環境が大きく改善された職場も増えました。また近年は職場の熱中症対策についても法令上の対応が強化されており、事業者が体制を整えることが求められています。

ただし、この改善は設備投資ができる会社に限られます。同じ溶接工でも、空調完備の工場と、扇風機だけの工場では、夏の負担がまったく違います。

確認すべきこと:工場の空調設備/スポットクーラーの有無/空調服の支給または補助/夏季の休憩ルール/水分・塩分の提供体制
2 粉塵・ヒューム 大きく変わった

最も明確に改善した要素です。2021年4月の規制により、屋内で継続的にアーク溶接を行う職場では、ヒューム濃度の測定、換気設備、適切な呼吸用保護具、フィットテスト、6か月ごとの特殊健康診断が事業者の義務となりました。

「マスクをして我慢する」から「測定して、数値に基づいて対策する」へ——管理の考え方そのものが変わっています。局所排気装置やヒューム吸引トーチを導入し、発生源で吸い取る対策を進める職場も増えました。

ただしこれも、法令を確実に実施している会社とそうでない会社の差が大きいのが実情です。測定をしていない、健診を受けていない、保護具が古いまま——こうした職場は法令違反の可能性があります。

確認すべきこと:ヒューム濃度測定の実施状況/局所排気装置・ヒューム吸引トーチの有無/保護具の種類と支給頻度/フィットテストの実施/特殊健診の実施頻度
3 光・視覚への負担 保護具の進化で軽減

アーク光による目への負担、いわゆる電気性眼炎のリスクは、溶接作業に固有のものです。適切な遮光が不十分だと、目の痛みや充血を引き起こします。

この点は保護具の進化が大きく貢献しています。アークを検知して瞬時に遮光度が変わる自動遮光面(液晶式)が普及し、面を上げ下げする動作が不要になりました。視界が確保されるため作業精度も上がり、首への負担も軽減されます。

ただし、自動遮光面は従来の固定遮光面より高価です。会社が支給するか、個人負担かは職場によって分かれます

確認すべきこと:自動遮光面の支給有無/保護メガネの支給/保護具の更新頻度/個人負担の範囲
4 姿勢の負担 設備で大きく差が出る

上向き溶接、狭い場所での作業、長時間の中腰——これらが腰・肩・首に負担をかけることは、溶接という作業の性質上、避けがたい面があります。

ただし、設備の有無で負担はまったく違います。ポジショナー(溶接物を回転・傾斜させる装置)があれば、無理な姿勢を取らずに下向き姿勢で作業できます。適切な高さの作業台、クレーンやリフターによる重量物の移動、溶接ロボットの活用——こうした設備投資が進んでいる職場では、身体的負担が大きく軽減されています。

逆に、設備が乏しい職場では、すべてを人力と姿勢でカバーすることになります。この差は会社単位で生じており、業界全体で一律ではありません

確認すべきこと:ポジショナーの有無/作業台の高さ調整/クレーン・リフターの整備/溶接ロボットの導入状況/上向き作業の頻度
5 危険性(火傷・感電・火災) 管理体制で差が出る

高温の金属、飛散するスパッタ、電流を扱う作業——溶接には本質的な危険が伴います。この性質自体は変わりません。

しかし、危険を「管理できているか」は職場によって大きく異なります。防護具の適切な支給、作業手順の明文化、定期的な安全教育、アーク溶接特別教育の確実な実施、設備の点検——これらが機能している職場では、事故の発生率は大きく下がります。

特に注目したいのが「安全にコストをかけられるか」です。保護具を惜しまず更新する、危険な作業を無理に急がせない、人員を適切に配置する——これらはすべて経営の余裕と直結しています。

確認すべきこと:保護具の支給と更新頻度/作業手順書の整備/安全教育の実施頻度/過去の労災発生状況/設備の点検体制

技術の進歩による変化

5要素とは別に、現場を変えつつあるのが自動化・ロボット化です。溶接ロボットの導入により、単純な繰り返し溶接はロボットが担い、人はロボットでは対応できない複雑な溶接や、段取り・品質確認・プログラム作成を担当するという分業が進んでいます。

これは「溶接工の仕事がなくなる」という話ではありません。むしろ身体的負担の大きい作業をロボットが引き受け、人は技能を要する部分に集中できる方向への変化です。ただし、ロボット導入には相応の投資が必要であり、これもまた会社によって差が出る領域です。

同じ溶接工でも、会社によってここまで違う

ここまで見てきたとおり、「きつさ」の大部分は職種ではなく職場環境に起因します。同じ「溶接工」という求人でも、条件は驚くほど異なります。

× 負担が重くなりやすい職場
• 換気が扇風機頼りで、局所排気がない
• ヒューム測定・特殊健診を実施していない
• 保護具が古く、更新は自己負担
• ポジショナーがなく上向き作業が多い
• 夏場の空調対策がほぼない
• 資格取得は自己責任・自費
○ 環境が整っている職場
• 局所排気装置・ヒューム吸引トーチを整備
• 濃度測定と特殊健診を法令どおり実施
• 自動遮光面・保護具を会社が支給・更新
• ポジショナーや溶接ロボットを活用
• 工場空調・スポットクーラー・空調服
• 資格取得費用を会社が負担
環境整備は「経営の余裕」から生まれる
局所排気装置、ヒューム濃度測定、ポジショナー、溶接ロボット、工場の空調、保護具の定期更新——これらはすべてコストです。直接の売上にならない投資を継続できるのは、収益性が確保できている会社に限られます。逆に言えば、作業環境が整っている職場は、それだけ経営が安定している可能性が高いということです。求人票の給与額だけでなく、この視点で企業を見ることが重要になります。

職場を見極める7つのチェックポイント

溶接工の転職で失敗しないために、必ず確認すべき7点を整理します。

① ヒューム対策の実施状況

2021年以降、屋内で継続的にアーク溶接を行う事業者には測定・換気・保護具・健診が義務づけられています。「ヒューム濃度の測定はされていますか」「特殊健診は半年に一度ありますか」——この2つを聞くだけで、法令遵守の姿勢がわかります。

② 排気・換気設備の中身

全体換気だけか、局所排気装置があるか、ヒューム吸引トーチを使っているか。発生源で吸い取る設備があるかどうかで、日々の空気環境は大きく変わります。可能であれば工場見学を申し出て、実際に確認しましょう。

③ 保護具の支給と更新

自動遮光面は会社支給か自己負担か。防じんマスクのフィルターはどの頻度で交換されるか。革手袋や前掛けは支給されるか。保護具にコストをかけている会社は、安全への姿勢が明確です

④ 設備と自動化の水準

ポジショナー、作業台、クレーン、溶接ロボットの有無。設備が整っているほど身体的負担は減り、同時に生産性も上がります。設備投資を続けられる会社かどうかは、将来の働きやすさにも直結します。

⑤ 資格取得の支援体制

JIS溶接技能者資格の受験費用、講習費、更新(サーベイランス)費用を会社が負担するか。溶接工の市場価値は資格と直結するため、この支援の有無はキャリア形成に決定的な影響を与えます。合格時の報奨金や資格手当の設定も確認しましょう。

⑥ 勤務時間と休日

年間休日日数、残業の実態、繁忙期の波。製造業は納期に左右されるため、繁忙期の状況を具体的に聞いておきましょう。年間休日120日以上がひとつの目安になります。

⑦ 経営の安定度

製造業は受注の増減や取引先の方針に業績が左右されます。特定の1社への依存度が高い会社は、その取引先の状況で経営が揺らぎます。直近数年の業績推移、自己資本比率、取引先の分散度を確認しましょう。

工場見学は必ず申し出る
溶接の職場環境は、実際に見なければわからない部分が大半です。換気の状況、明るさ、整理整頓、設備の新しさ、働いている人の表情——これらは求人票にも面接の会話にも表れません。「一度作業場を見せていただけますか」と伝えて断られる会社は、それ自体が判断材料になります。逆に快く案内してくれる会社は、見られて困ることがないということです。

辞める前に整理したい3つの問い

問い①:きついのは「溶接」か「今の職場」か

溶接という作業そのもの——金属を溶かして接合する行為、精度を追求する集中——が自分に合わないのであれば、職種を変える選択も検討すべきです。

しかし、「換気が悪い」「設備が古い」「保護具が支給されない」「資格を取らせてもらえない」が理由なら、それは職場を変えれば解決する可能性が高い問題です。溶接の技能そのものにはやりがいを感じているのに、環境が原因で辞めてしまうのは、積み上げた技能を手放すことになります。

問い②:自分の技能と資格は、どこで評価されるか

溶接は「腕が客観的に評価される」職種です。JIS溶接技能者資格は、その技量を第三者が認証したもの。今の職場で正当に評価されていなくても、市場での価値は別です。

特に、ステンレス、チタン、アルミといった難易度の高い材料を扱える技能や、TIG溶接の精密な技術は、扱える人が限られるため高く評価されます。自分がどの技能を持っているかを棚卸ししてみてください

問い③:5年後・10年後、どうなっていたいか

目先の条件改善だけでなく、上位資格を取れる環境があるか、難易度の高い材料を扱える案件があるか、将来的に指導者や管理側に進む道があるかまで見ておきましょう。

溶接工のキャリアには、技能を極める道のほか、溶接作業指導者として後進を育てる道、溶接管理技術者として施工計画・品質管理に進む道もあります。どの道を目指すにせよ、その経験を積める職場かどうかが分岐点になります。

溶接工の市場価値は、今きわめて高い

最後に、転職を考えている方に知っておいてほしい事実があります。

溶接は、あらゆるものづくりの基盤となる技能です。橋梁、船舶、建築鉄骨、圧力容器、産業機械、建設機械、プラント配管——金属を接合する工程なしに成立する製造業はほとんどありません。

一方で、溶接技能者の高齢化と担い手不足は、業界共通の深刻な課題です。技能の習得に時間がかかること、若手の入職が減っていることから、「募集しても採用できない」という状況が全国的に続いています

つまり、資格と実務経験を持つ溶接工は、企業から強く求められている立場にあります。

「求められている」からこそ、慎重に選べる
需要が高いということは、複数社を比較して、環境の良い会社を選べる立場にあるということです。焦って最初に内定が出た会社に決める必要はありません。作業環境、設備の水準、資格支援、休日、そして経営の安定度——これらをじっくり比較したうえで判断できるのが、今の溶接工の強みです。

まとめ

「溶接工はきつい」という言葉を分解すると、暑さ・粉塵・光・姿勢・危険性の5要素に整理できます。このうち粉塵・ヒュームについては、2021年4月の法改正で管理の枠組みが根本から変わりました。屋内で継続的にアーク溶接を行う事業者には、濃度測定・換気・保護具・フィットテスト・特殊健康診断が義務づけられています。

また、暑さは空調設備と空調服、光は自動遮光面、姿勢はポジショナーや溶接ロボットによって、それぞれ負担を軽減する手段が存在します。つまり「きつさ」の多くは、設備投資と管理体制で改善できるということです。

裏を返せば、これらに投資できる会社とできない会社で、現場の実態は大きく分かれています。今の環境がきついと感じるなら、まず「きついのは溶接という仕事か、今の職場か」を切り分けてください。職場が原因なら、積み上げてきた技能と資格を手放す必要はありません。溶接技能者への需要は構造的に高く、複数社を比較して選べる立場にあります。環境だけでなく経営の安定度まで確認したうえで、納得のいく選択をしてください。

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出典・参考
  • 厚生労働省「金属アーク溶接等作業について健康障害防止措置が義務付けられます」
  • 厚生労働省「労働安全衛生法施行令及び特定化学物質障害予防規則等の改正について」
  • 一般社団法人 日本溶接協会「金属アーク溶接等作業における特定化学物質障害予防規則の解説」
  • 厚生労働省「職場における熱中症予防対策」
  • 厚生労働省 職業情報提供サイト(job tag)「溶接工」

ジョブスコア編集部

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